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2014年4月30日水曜日

7話 彼女に会いたくて 1


序章・ 7・ 101112


「父ちゃん、3時だで。起きてよ」
「う~ん、何だぁ?」
「今日は会いに行く日だで」
「あぁ、そうだなぃ。会いに行くかぁ。それにしてもオメェ、毎週よく起きれるもんだわなぁ」

実は二ヶ月程前、息子の大と東沢に入ったんですよ。
遡行の練習も兼ねて、小学生の大には少しばかり難しい東沢を選びました。
この沢は放流があまりされていないようで、居着き岩魚が多いんですね。
尺を超すような岩魚には会えませんが、腹と斑点の黄色い綺麗な岩魚が棲んでるんです。
20cm前後の可愛い岩魚と遊びながら、沢を上って行きましょう。
藪を掻き分け、倒木を潜り、岩によじ登って・・・ 山も沢も魚も、みんな遊び相手ですよ。
そこにあるもの全てが私達を楽しませてくれているようですね。

太陽が昇りきった頃、以前から気になっていた弛みに出ましたよ。
流れは見上げるほどの岩にぶつかり、その岩を包むようにSの字を描いていますね。
その下には程好い弛みが見えるでしょう?
沢沿いの小さな砂地がテラスのようですね。

「大、朝飯にすっかぁ?」
「ウン、腹減ったぁ」
背中の弁当を降ろして、腹ごしらえをしておきましょうよ。
今日は夕方まで釣り続けますよ。
「大、今朝は結構出たなぃ。オイは幾つ出ただ?」
「オラァ12~3かなぁ。でも、持って帰ぇるようなの出ねえで」
「そうさぁ。ここは居着きっきりだでや。そんなんデッケェのは珍しいど」
「ふ~ん、本沢ならデッケェのが棲んでんのになぁ」
「そうだなぃ。だけど、みんな綺麗だっただず?昔っからの魚は、あんな風にみんな腹が黄色いんだで」
「ふ~ん、そう言やぁ父ちゃん、顔ん真っ黒の魚が出たでぇ」
「ほ~ぅ。そりゃぁ、いい魚だわ。居着きの親分かも知んねぇな。ハハハ」
「前に父ちゃんと行った春日の沢はさぁ・・・」
「うん、うん・・・」

握り飯を頬張りながら、息子も釣人の端くれですねぇ。
魚の話となれば、目を輝かせていますよ。
算数の話で、これほど盛り上がれば息子の成績も良くなるんで しょうが・・・ 
まぁ、親が親ですからねぇアハハ・・・ 
 
「大、見てみぃ!いるど!」
テラスの上流の岩、そのエゴからユラッと影が動いたんです。
ゆっくりと、ゆったりと、だけど力強く、弛みを下って来ましたよ。
尾鰭を音もなく左右に振りながら私達の目の前を通り過ぎ、反転し・・・対岸の沈み石の向こう側に付きましたね。
「デケェ。尺上だわな・・・」
「父ちゃん、デッケェのはいねぇっつっただねえか!」
「シーッ!騒ぐな。こんなん、初めてだわ」
「大、仕掛けぇ作り直せ。オラァの籠に一号があるからなぃ。通しで一尋半にしろや。鉤は岩魚8号だな。キジはデッケェの選べよ」
「う、うん」

この沢にこの岩魚ですよ。
久しぶりの興奮ですね。
息子が仕掛けを作り直す間、沈み石から目を離してはいけませんよ。
黒い影が動いたら、教えて下さいね。
こいつは釣りましょうよ!

「大、仕掛けぇ出来たか?」
「これでいいだ?」
 「よし、流してみれや」
ポトッ、スゥーッ。
「食わねぇか?」
「ダメだわぃ。」
「オラァが見ててやるからな、少し流してみぃ」
「うん」
ポトッ、スゥーッ。ポトッ、スゥーッ。ポトッ、スゥーッ。
「だめだぁ。貼りっ付いちまったなぃ」
「父ちゃん、どうすんだ?」
「二時間も待ってりゃぁ、食い気も出るだず」
「そうだなぃ」

ここからは我慢比べになってしまいます。
 私達は気配を消すべく、魚は身を消すべく・・・

「ダメだなぁ。もう何時だぁ?」
「もう4時だで。父ちゃん、夕方も狙うだか?オラァ腹ぁ減ったでぇ」
「そうさなぁ。今日はやめるかぁ」
「父ちゃん、あの子は居着きだだか?」
「そうさぁ」
「会いてぇなぁ」
「そうかぁ。会いてぇかぁ。ほんじゃぁ、来週も彼女に会いに来るかぁ?」
「彼女?」
「おう、ありゃぁ彼女だで」
沢
こうして、彼女への想いを、息子と共にしてしまったんです。
彼女に出会えるのは二ヶ月も先の話なんですがね。
次は、そんなお話にしましょうね。

つづく
 




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