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親父になる 第二部・26歳で息子を授かり、本当の意味での親父になるまでの物語。 第二部。(全25話)
親父になる 第三部・26歳で子供を授かり、本当の意味での親父になるまでの物語。新連載(連載中)

2014年5月9日金曜日

12話 孤高の人


序章1011・ 12


囲炉裏
「おっ、いらっしゃい・・・タケ、お湯割か?」
「うん、ボンジリとセセリ2本っつね」
「ん・・・」

行きつけの焼き鳥屋はこんな会話で始まるんです。
造り酒屋の倉庫を改造した店内は薄暗く、使い込んだ分厚いカウンターが黒い光を放っていますね。
手斧で削った梁は、申し訳なさそうにぶら下った灯りの上で 闇の中に隠れていますよ。
まだ誰もいませんね。
カウンターの中で、トーちゃんが炭を煽っているでしょう?この店のご主人ですよ。




「タケ、仕事は忙しいだか?」
病気で車椅子生活になったトーちゃんは、不自由な手で焼き鳥を焼き始めましたね。
「うん、そんなんでも無ぇやなぁ」
「そうか、ほんじゃぁ、毎日釣りでも行ってるだか?」
「うん、最近、夕方が調子いいでね。仕事帰りにチョコッとなぃ」
「ほぉ・・・」
「トーちゃん、今度釣ったら持って来っか?」
「いらね・・・」
「・・・」

トーちゃんは元気な頃、山の人だったんですよ。
春は山菜、夏は岩魚、秋は茸…近所の誰よりも沢山採ってきたんです。
昔の人ですからね、その場所を人には絶対教えないんですよ。
朝早く家を出て10時過ぎには縁側でその日の収穫を広げていましたね。

「トーちゃん、今日釣ってたらな、ワラビが畑みてぇに生えてたでぇ」
「ん、そりゃぁ峠の料金所の下か?」
半分ずり落ちた眼鏡の奥から、上目遣いで私の様子を窺っていますね。
「うん、そうだよ。ありゃぁ採っても良いだかぃ?」
「いいさ・・・オラァよく採ったもんだわぃ」
「へ~・・・」

会話が弾むわけでもなく、ましてや気の利いた酌婦がいるわけでもなく、トーちゃんのポツポツと話す昔話を肴に呑むのが心地良いんですよ。

「あら、タケちゃんいらっしゃい」
あ、奥さんが買い物から帰ってきましたね。
カーちゃんですよ。
「あ、カーちゃん、まだ暖簾出てなかったけど・・・」
「いいさぁ、タケちゃん、今日峠で釣りしてたねぇ。軽トラ停まってたわぁ」
「はは・・・」

カーちゃんが奥へ消えると、カウンターは炭が弾け、鳥が焼きあがる音だけになってしまいましたね。

「タケ、釣れてるだか?」
「うん、何とかなぃ」
「沢ぁ、荒れてねぇかや?」
「トーちゃんが釣ってた頃から比べりゃぁ荒れたんだずなぁ」
「ん・・・」

眼鏡の奥に見えるトーちゃんの心情が妙に気になりますね。

「岩魚はなぁ・・・大事に釣らなきゃいけねぇど」
「うん・・・」
「種ぇ残してやんねぇとなぁ・・・」
「うん・・・」
「ほぉ、焼けたど・・・」
「うん・・・」

ふぅ、丁度いいほろ酔い加減になりましたね、そろそろ帰りましょうか。
お客さんが来始める時間ですよ。

「トーちゃん、ご馳走さん。また来るわぃ」
「ん・・・」
「勘定、ここに置いとくでぇ」
「ん・・・」

カウンターを離れ、硝子格子を引こうとする私の背中で、
「おい、タケ」
トーちゃんが呼び止めましたよ。
「ミソサザイ・・・ミソサザイは鳴いてるか?」
「・・・」
「ミソサザイはまだ遊んでるか?」
「・・・うん・・・遊んでるで・・・」
「ん・・・そうか・・・」
「トーちゃん、今度一緒に行くか?」
「・・・ん・・・いや、行かね・・・」

谷の奥深く、今日もミソサザイは遊んでいました。
岩魚達は大岩の影で、ひっそりと、しかし逞しく生き続けていました。

・・・ミソサザイに会った日はなぁ、いい岩魚にも会えるでなぁ・・・

 ・・・うん・・・
岩魚


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