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土に呟きながら・慣行農で生活をしながら、自然農を知り、それを実験していた百姓の物語。 (全35話)
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生まれるということ・SLEに病んだ妻の出産に関する物語。 (全30話)
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親父になる 第二部・26歳で息子を授かり、本当の意味での親父になるまでの物語。 第二部。(全25話)
親父になる 第三部・26歳で子供を授かり、本当の意味での親父になるまでの物語。新連載(連載中)

2014年7月17日木曜日

13 半被のある風景

101112・ 13

「だだいまぁ」
ひょいとくぐった物干し竿。
本家のおばちゃんの石鹸と陽の香りがする物干し竿。
去年より少しだけ低くなった気がする。

「おぉ、たけ遅かったな」
本家の叔父ちゃん、奥の座敷で徳利を傾けながら目を細くしてますね。
今日は特別な日なんですよ。


親父も叔父ちゃんも仕事を休んで、みんな本家に集まって、祭りの準備なんです。
お袋も叔母ちゃんも煮物を作ったり酒を燗したり、大忙しなんです。
「ほら、たけちゃん、早くしないと」
「あ、叔母ちゃん、昼飯は食ってきたから」
「学生服はそこらに置いときな、後でたたんどくからね」
「うん」

「たけ、こっち来い」
奥の座敷、襖の向こうで親父が呼んでます。
「あれぇ?親父、なんて格好してるんだ?」
黄ばんだワイシャツ。
しわくちゃなネクタイ。
正座した黒い礼服は膝が光ってますよ。
「たけ、俺は今年から世話役だからな、こんな格好さ」
「・・・」
「今、兄さんとと話してたんだけどな、この半被、今年からお前がが着ろ」
「え・・・」

裾の長い分厚い半被。
襟も袖もささくれだった分厚い半被。
毎年々、祭りの度に・・叔母ちゃんが洗濯板に乗っける度に・・色褪せてきた分厚い半被。
光った親父の膝の前にたたまれてる。

「たけ、頼んだぞ」
親父に初めて頼まれた。
本家の叔父ちゃん、目を細くしながら徳利を傾けた。
叔母ちゃん、半被を広げて俺に袖通してくれたっけ。

お袋、徳利を三本持ってきたよ。
俺はそのまんま胡坐かいて。
本家の叔父ちゃんの真ん前で胡坐かいて。
叔父ちゃんが傾けた徳利に杯出したっけ。
この年、俺の汗がこの半被に初めて染みたんだ。

昔々の話さ。


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